演 題  糖質研究支援データベース・”Glycosylation”の作成
発表者
(所属)
 吉野 輝雄
 (国際基督教大学・理)
連絡先 〒181 三鷹市大沢 3−10−2 国際基督教大学教養学部
     理学科化学教室 0422-33-3281 e-mail: yoshino@icu.ac.jp
キーワード グリコシル化, 糖鎖合成,File Maker pro,視覚的表示
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
リレーショナル機能をもつファイルメーカーpro Ver. 4(クラリス社) を用いて糖鎖合成に有用なグリコシル化反応データベースを作成した。 糖鎖の種類,立体化学的条件を指定して最適反応条件を検索することができる。 検索結果を視覚的に表示する。また,糖鎖合成についても学習できる。
環 境 適応機種名 Macintoshコンピュータ(CPU86020以降の上位機種)
O S 名 Mac OS: Kanji Talk 7.5
ソース言語 FileMaker proの定義コマンド,スクリプトを利用
周辺機器   
流通形態
(右のいずれ
かに○をつけ
てください)
 ・化学ソフトウェア学会の無償利用
  ソフトとする
 ・独自に配布する
 ・ソフトハウス、出版社等から市販
 ・ソフトの頒布は行わない
 ◎その他     ・未定
具体的方法

 

1. はじめに
 タンパク質,核酸と並んで糖質が担う生体機能が今大きな注目をあびており,糖鎖科学という新しい研究分野として発展している。そこにおける中心課題は,多様な糖鎖構造と機能との関係を解明することである。糖質の有機化学は,E. Fischer以来長い歴史をもつが,これまでは多価アルコール性アルデヒドという多官能性化合物の化学反応ならびに立体化学的問題,あるいは天然配糖体,抗生物質などの薬理活性をもつ糖質の構造・合成などが主要な研究課題であった。しかし,近年,その様相が一変した。すなわち,生体機能を有する複合糖質(糖タンパク質,糖脂質,ムコ多糖)の糖鎖の化学合成が大きくクローズアップされるようになり,糖鎖科学の一端を担うことになった。
 糖鎖の合成はグリコシル化反応によってなされる。グリコシル化は,その位置選択性,立体(アノマー)選択性をはじめとする多くの反応条件の制御を要求する反応である。グリコシル化は糖鎖化学の歴史の中で常に中心的テーマであり続け,近年,精密有機合成の方法が導入されて急速な進歩を遂げたものの,未だに決定的な方法が見いだされていない現状にある[1]。そこに,グリコシル化のデータベース作成の意味があると考えた。

2. グリコシル化データベースの作成
 作成に用いたソフトは,File Maker pro(Ver. 4.0)で,附属する多様なレイアウト設定をはじめとする検索機能,画像(構造式)フィールドの定義,画面切替用のボタン設定,マクロ・コマンド設定用のスクリプト機能,リレーショナル機能などを活用した。
初期画面には種々の選択ボタンがあり,検索,表示画面などをクリックで指定する(図1)。グリコシル化に関わる要素をフィールドとして定義し,具体的な糖鎖合成を行う上で最適反応条件を選択する際の情報が簡単に得られ,しかも図式による分かりやすい表示法を考案した(図2)。このデータベースは,第一には糖鎖研究に関わる研究者や学生を支援するものであるが,糖鎖合成について学習する人々の情報源としても有用である。すなわち,糖鎖合成の一般論(解説)と参考文献がリレーションナル機能を利用していつでも参照できるようになっている[2]。さらに,糖の構造部品をHaworth式及び立体式として保存してあるので,合成目標の糖鎖をドローソフト上で組み立てることができる。また,糖供与体と糖受容体の画像メニューを見ながら視覚的に反応条件を見つけ出すモードが用意されている。

図1 初期画面

図2  検索結果の図式表示

3. 当グリコシル化デ-タベースの利用のしかたについて
 現在,このデータベースにはオリゴ糖鎖の合成例を中心として約100個のレコードが保存されており,主なグリコシル化反応の方法(条件)が含まれている。従って,従来法の中から適当な糖鎖合成法を選択して反応条件を参考にしたいと考える糖質研究者には,必要なデータを十分提供することができる。すなわち,参考データの提供を主な目的としてデータが収集されており,個々の糖鎖合成の最適反応条件は個別に探求しなければならないという実情を踏まえた利用を前提としている。従って,演者自身は,文献に報告されている膨大なグリコシル化の完全なデータベースの構築を目標としてはおらず,むしろ新しいグリコシル化の方法,改良法などを今後追加していきたいと考えている。勿論,利用目的を変えて,同一方法の多様な適用例を見るためのデータベースへと発展させることも可能である。

参考文献
1. a) K. Toshima and K. Tatsuta, Chem. Rev., 93 (1993) 1503-1531. b) R.R. Schmidt, Adv. Carb. Chem. Biochem. 50 (1994) 21-123.
2. 吉野 輝雄他,糖鎖学概論,丸善,1997.